« 熊川哲也・シカゴ | Main | 徹子の部屋・BYJ »

September 10, 2005

ドレッサー

パルコ劇場。イギリス第2次大戦戦時下の劇場が舞台。老いて演技が危ぶまれる俳優と俳優を支え舞台へ送り出すドレッサー(付き人)。

リア王を演じる老俳優に平幹二郎。俳優の世話をする「忠実な」ドレッサーに西村雅彦。

ヒラミキの圧倒的な存在感を堪能。彼もまた七色の声七色の表情の持ち主だった。年老いて最初のセリフを確かめても確かめても忘れ自信を失った哀れな老人が、鏡の前に座り化粧を始めたとたんに目に光が射し口元に傲慢で不遜な笑みを浮かべる。彼を気遣うドレッサーをののしり、使い走りをする小娘に色目をつかい。

老俳優のわがままに18年間つかえつづけたドレッサーは、俳優の自尊心をくすぐって彼をほめあげ、ありもしない観客や妻の絶賛の声をつたえ、舞台監督や妻の地位をねらう小娘や夫への嫌悪を募らせているだけの妻を俳優の空間から追い出し、彼を観客の前に送り出す。

イギリスの階級差は根深い。俳優にとって付き人は人間として数えない召使いでしかない。
そして、俳優を客の前へ送り出せるのは自分だけであるという強烈な自負心がドレッサーをささえても、その心の下には見下されたものの持つ憎悪が隠れている。自分さえ気づいていない憎悪。

脚本は完璧に私の好み。ヒラミキは観ていて楽しかった。俳優をたっぷり楽しむのが演劇の幸せ。その幸せをかれは十二分に観客に与える。

しかし、完璧な脚本からなる作品の意図を、プロデューサーは、演出家は、そしてドレッサー役の西村雅彦は、理解していなかったと思う。西村雅彦は下手な役者ではない。器用にたくさん動き長ぜりふを連ねた。でも、彼の持ち味の軽さや表現しようとしていたと思われる洒脱さは、この役には不向きだったように思う。彼のたくさんのセリフや所作が、ドレッサーを召使いとしか扱わない俳優とぶつかってゆかない。だから、小さな携帯用の酒瓶に入れた酒を飲むドレッサーに意味を与えてくれない。老俳優を演じるのがもっと軽い役者だったらうまくいったかも知れない。石坂浩二とか宇津井健とか。ただ、老衰と色ぼけ欲ぼけだけの老人を演じていたら、ドレッサーの軽妙さが引き立ったかも知れない。しかし、ヒラミキの厚みある演技と存在感には「軽妙さ」は太刀打ちできなかったと思う。

老優が死んだとき、「このあと舞台をどうするんだろう」と思った。ステージのベッドの上でヒラミキは圧倒的に「死んで」いる。彼以外の役者がいろいろとしゃべる。長い舞台だったからついうとうととする。それから、西村雅彦のドレッサー(付き人)がドレッサー(鏡台)の鏡に向かって何かしら言って。それがラストシーン。
えっ?! ラストは主役で終わらないと、だめでしょう。

しばらくして、主役はドレッサーだったのだと気づいた。そもそも題名がそうなんだから。なんで、そう思ってみていなかったのか。老優という存在が失われてからの時間は舞台の上に緊張感が高まるべき時間だった。ついに老優という暴君がいなくなったときに本当の主役が姿を現すその瞬間がラストシーン。しかし、そう受け取れずに幕が下りてしまった。西村雅彦は最初から最後まで「主役」を演じられなかった。これもまた舞台の残酷。

それでも、「金返せ」の不満はひとつもなかった。舞台らしさを充分味わった。役者を味わい、舞台の成り立ちの底深さを知った。演劇を充分味わって楽しめた夕べだった。

はねてから、一緒に観た友人と会話。
「真田くんにやらせてみたいね」「根深い階級差ではなくて、主従に男色の気配が出て日本の観客にはそちらの方がよくわかる」「座長夫人を大竹しのぶ。3人の濃密な舞台。」「観てみたい!」
ただし、観る方にも気合いと根性が必要。

|

« 熊川哲也・シカゴ | Main | 徹子の部屋・BYJ »

Comments

What's up i am kavin, its my first time to commenting anyplace, when i read this piece of writing i thought i could also create comment due to this sensible piece of writing.

Posted by: best dating sites | November 24, 2014 at 09:57 PM

Great post. I was checking continuously this blog and I am impressed! Extremely helpful info specifically the last part :) I care for such info a lot. I was seeking this particular information for a very long time. Thank you and good luck.

Posted by: best dating sites | December 21, 2014 at 06:24 AM

Definitely consider that which you said. Your favorite justification seemed to be at the net the easiest thing to take note of. I say to you, I definitely get annoyed at the same time as other people think about concerns that they plainly don't realize about. You managed to hit the nail upon the highest and also defined out the whole thing without having side-effects , folks can take a signal. Will probably be back to get more. Thank you

Posted by: best dating sites | December 28, 2014 at 01:46 AM

I do not even know how I ended up here, but I thought this post was great. I don't know who you are but certainly you are going to a famous blogger if you aren't already ;) Cheers!

Posted by: best dating sites | January 01, 2015 at 02:30 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/83948/5876776

Listed below are links to weblogs that reference ドレッサー:

« 熊川哲也・シカゴ | Main | 徹子の部屋・BYJ »