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March 18, 2006

ふたつのジキルとハイド

昨年末に日生劇場で鹿賀丈史主演のジキルとハイドを友人と見たのでした。2001年ミュージカルベストワン4冠作品の再演。鹿賀丈史は日本のミュージカル界を代表するひとりと言われていますから、市村正親とともに、1度はチェックしておくべきだと考えて。
2時間半舞台を見て幕が降りたとき、感想をここに書くことが出来ないほどの駄作で、友人は「日本のミュージカルはもういい」と言い、同じ思いのわたしは、これを終了作品にするのがいやで、無理に先日のトミーを見てミュージカルを終了にしたのでした。結果は、先日の報告の通り。わたしのミュージカルは終了のはずでした。

友人は韓国のミュージカルに向かいました。チョ・スンウ主演韓国版「ジキルとハイド」

舞台には3種類しか在りません。もう1度みたい、と、よかった(1回は見ておいてよい)、と、金返せ、と。
高いお金を払って「もういちどみたい」にぶつかる確率がそう多くないことを、わたしはこの二年半でいたく学習してきました。だから「良かった。もう一度みたい」」という友人のメールに、すくなくとも友人にそう言わせる作品は、逃してはいけないと思いました。しかも同じ作品。比べる楽しみにそそられて、当日券に1時間半並びました。

チョ・スンウ。「マラソン」を主演した演技派の俳優である彼が、ミュージカルスターとしてどのくらいの力を持っているのか、韓国で「ヘドウィッグ」を演じて絶賛されたということのほかには、ほとんど予備知識を持っていませんでした。

結果から言うと、「よかった(1回は見ておいてよい)」でした。この作品についてはこれ一回でよい。ただし、チョ・スンウで「ヘドウィグ」が来たら見なくては、と。つまり、ミュージカルを卒業にするのは、まだ早いぞ、当分休止にするにしても、に気持ちが変わったのでした。チョ・スンウによって。

ここのところ、オリンピックのスピードスケートも、フィギュアジュニアも、WCBの野球も、韓国に連敗中。舞台を比べるのに国の勝ち負けなんか持ち出すのはおろかですが、それにしても、根っこは同じではないでしょうか。見終わって、「まいったなぁ」とため息をついている自分が、いました。

いえ、純粋に作品として比較しなくてはいけません。
2つの身毒丸を比べたときには上質の演劇の楽しみが在りました。
ふたつのジキルとハイドを比べて見えたのは舞台の正直さ、残酷さという言葉をつかえないほどの舞台の神さまの正直さでした。

日本語の舞台は、作品がいわんとすることがさっぱり腑に落ちず、終盤へ行けば行くほど役者はそれぞれ在らぬ方向に向かい、ラストシーンは蛇足としか思えず、見終わって、ただ唖然とした。
ずっと、鹿賀丈史さんの思わせぶりなセリフ回しと動作だけが前に出て、制作側の感動させようとしている意図は感じるのですが、意図が分かったって、心が動かないのはどうしようもない。意味不明の舞台だったのでした。

同じストーリー、同じシーン、同じ歌、ほぼ同じ意味のせりふで進行していった今日の舞台。
言葉のわからない韓国語に日本語の字幕をときおりたどりながら見た今日の舞台。
そして、この舞台で、この作品がどういう作品なのか、よくわかった。
自らの中にハイドがあらわれたあとのジキルの苦しみは、自らの中から愛が喪失してゆく者の苦しみに他なりません。愛を失うかもしれないおそれを救うのは、疑いに直面してもなおそこにあり続ける愛しかない。
エマののびやかなソプラノ。チョ・スンウとの和音の快感。歌がシーンをまわす心地よさ。これがミュージカルの楽しみ。ミュージカルはコンサートではない。歌がつなぐべき場面がなくてはならない。舞台の上に人がいて息をし、視線を吸い込む表情がなくてはならない。作品で表現されるべきひとの思いが無くてはならない。

苦い思いがわきました。

日本人の心の中から、愛が失われたのだろうか。だから、舞台からも、語るべき愛が消えてしまったのだろうか。もう、舞台の上に愛を描くことが出来なくなってしまったのだろうか。と。
悪意や疾走感や残虐さやねたみやぬくもりやさみしさを、描くことはできても、愛を描くことは、できなくなったのだろうか。ひとは、そこにないものを、舞台のうえにつくることは出来ないのですから。

カーテンコールに立ったチョ・スンウの、美しい敢然とした笑み。まいった・・・・。

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