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September 19, 2006

そして、彼のオレステスへ。

膝を抱えて泣いてから10日間。

この舞台は誰の悲劇なのか。オレステスの悲劇ではなく、エレクトラの悲劇の続きなのではないか。

わたしは、オレステスの物語が見たい。
オレステスの物語を見るためには、エレクトラから見た「かわいそうな」弟ではなく、オレステスの自我の哀しみをさがさなくてはならない。そのためには彼の物語の始まりを知らなくてはならない。なぜ彼は母親を殺したのか。彼の物語で語られている言葉はすべて、あとからつけた言い訳でしかない。
彼は彼自身の理由を持たずに母を殺し、その瞬間から、「人間の悲劇」が始まった。

彼のオレステスへ。

彼のオレステスが見たい。魂が震えるほど美しい彼のオレステスが見たい。
エレクトラの悲劇ではなく。
自分自身の理由を持たずに神託と姉の悲劇と友の援助に後押しされて、「与えられた」理由で母を殺したこどもが,自分のしたことを見た瞬間から,恐ろしい悲劇を自覚し,それが神の与えた理不尽な悲劇だったと知り,彼を平気で殺そうとする神々や人々に抗って,火花を散らしながら,生きることをつかみ取る,彼のオレステスが見たい。

良心の苦しみ,復讐の女神が放つ狂気,姉の悲嘆,黒衣のコロスたちの嘆き,彼を見捨てる叔父,母殺しを責める祖父,彼を処刑しようとするアルゴスの市民たち,演出家が激しく降らせる雨,

そのすべてをふみこえて,そこから,生きようとするオレステスを見たい。

不死でない人間は、永遠の命を持つ神から見たら「こども」にすぎない。
神は平気で「こども」に母殺しを命じ,平気で彼を狂気に落とし,苦しむ彼を見捨てる。
人にとっては悲劇だが,神にとっては悲劇にはならない。ギリシアの神は妬み間違いを犯す。気まぐれでわがままで人の不幸など眼中にない。

しかし,彼は抗った。抗って生きようとした。
人は神が与える理不尽な悲劇に抗って、生きようとする。
オレステスが戦った相手は,メネラオスでもテュンダロスでもアルゴスの市民たちでもない。
彼が戦った相手は神が与えた悲劇そのものだった。

長い舞台の最後に,アポロンは再び彼の前に現れる。
物語が始まるとき彼は子どもだった。けれども、物語が終わるとき、彼はこどもでない何ものかに変化している。
彼は彼を解放したアポロンに対峙して立つ。
不敵な笑みを浮かべ,彼は勝ち誇って神を越えたものとしてヘルミオネをその腕に抱くだろう。

そこには,山と降る国旗などいらない。
「こどもではないなにものか」になって,生きる意志を持ち,神に対峙して立つ,魂が震えるほど美しい,彼のオレステスを見たい。

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Posted by: free music downloads | April 03, 2015 at 09:37 PM

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