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February 06, 2007

こまつ座「私は誰でしょう」

2007年2月5日 新宿サザンシアター 井上ひさし書き下ろし 演出栗山民也
 
まずは、演劇らしい演劇で、さすが井上演劇。それなりに楽しかったし、役者も芸達者。
ただ、長かったです。それから、少々退屈してしまいました。
言いたいことは芝居が始まってすぐに分かってしまって、だから、冗長に感じたのは演出や役者のせいではないと思います。戯曲のせいだと思うのです。

野田さんの「ロープ」に重なるようにストレイトなメッセージをもつ演劇が続いて、戦後のある世代の人たちの「焦り」のようなものを感じて、痛かったです。

舞台は戦後すぐの日本放送協会ラジオ「尋ね人」の制作室。
特攻隊の生き残りの組合青年、サイパンの(あり得ない)生き残りで記憶を失った復員兵(実は中野学校出身の元諜報部員)、弟が特効命令を拒否して自決した元アナウンサー、幼い頃育った日本の村の救済を試みる日系二世の将校・・・。登場人物の設定だけで「国家が行う戦争」の傲慢さを訴えるのに十分なのだけれど、十分すぎて、素材がそのまま出されて、見ている私はどうして良いか分からない。
ラジオの力と権力による検閲。それも、知っている。知っていて、だから、それがいったい何??
今の、私たちが生きているヨノナカの「内部から自己検閲させる力」はもっと巧妙で織り込み済みでヒトビトに認知されちゃっている。その認知のされ方の方がよほど恐ろしい。

井上ひさしさん、今なぜこの戯曲なのか、分かりませんでした。
この素材で楽しむのは難しいし、でも歌を聴いていると楽しませたいのかなとも思い・・・、
胸に迫る内面の描写はなかったし、戦争をめぐる「状況」を描いて何かを今の人間に訴えたかったのだとしたら、それに応える人間はもういない。もう、遅すぎると思います。

役者はよかったです。
川平さんは軽妙でいて真摯に、北村君はとぼけた味を前面に、佐々木蔵之介さんはインテリっぽさと不器用さを、大鷹明良さんは戦中戦後の庶民的文化人の風情を、前田亜季さんも明るくかわいらしい下町も娘を、それぞれに楽しく演じていて好感が持てました。

歌は少々無理があったようにも思います。歌声喫茶風ではありました。

けして、金返せの舞台ではありませんでした。
それなりに楽しめたとも思うのですが、いかんせん、正直言って、人間が壊れていっている今の日本の社会にメッセージを発するには、脚本が甘すぎる。人間を信じる視点が緩すぎて、見ていてその甘さに、辛くなりました。
もしもメッセージを発するつもりなら、突き刺さらなくては。じわじわと、あるいは突然に、または苦く。

それとも、牧歌的な戦後の人々を描きたかったのでしょうか。もう失われてしまった、良心の生き様を。

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