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April 07, 2011

国民の映画

2011 3月24日 パルコ劇場

直前の3・11。

福島原発という現在進行形の人的厄災を身に受けながらの観劇。
ごく普通に生きるひとりひとりが、権力と欲望を持つ一握りの人間の思いつきや保身、欲望の犠牲になる。
心がひりひりする。

宣伝相ゲッペルス、親衛隊長ヒムラー、空軍司令官ゲーリング。
3人が3人とも傲慢な権力者だ。しかし、彼らは彼らの上にいる「あの人」の前では互いに保身を競う卑小な駒でしかない。舞台にヒトラーは出てこない。ヒトラーだけが絶対唯一無比な存在で、その名前さえ口にすることがはばかられる。
その絶対者の下にいるミニヒトラーたちがおもいっきり俗物ぶりを発揮する。三谷さんはこういう俗物の描き方が本当に上手い。
小日向さん、段田さん、白井晃さん、なんて豪華なアンサンブル!

ゲッペルスはゲーリングに対抗して芸術の支援者を気取っているけれど、「形に残らないものにはお金をかけない」・・・それって彼が全く文化を理解できていないってことだ。
ゲッペルスは芸術を知ろうともしないヒムラーが大嫌いだ、しかし、彼とヒムラーに何の違いがある?
毛虫の命を惜しみながらユダヤ人の絶滅を平気で宣言するヒムラーと
召使いのフリッツの博識がなければ映画を語ることさえできないゲッペルス。
二人の間にどれほどの違いがある?

どこの社会にでもいる小市民が間違って人を殺す権力を持ってしまった、そんなヒムラーやゲッペルス、
段田さんのヒムラーはとぼけた持ち味が情けなく怖ろしかった。
小日向さんのゲッペルスは嫌らしい俗物が精一杯背伸びしている姿が妙に等身大で。

精一杯の言い訳で究極の保身に走る俳優兼映画監督の風間杜夫さん。

他にも芸達者な役者さんのオンパレード。

ゲッペルスの妻は女学生気質をひきずって大人になれない甘ちゃんだし、
反ナチの旗手だったはずのケストナーはあっけなくゲッペルスの「国民の映画」構想への参加を表明する。
表現者の特権のように「書きたいんだ」という言い訳を言い放って。

ドイツ人芸術家の苦悩や権力者の内面なんてくそくらえ、
みんなただの俗物、ただの「弱きもの汝の名はニンゲン」でしかない。
三谷さんは
80年前のドイツの場を借りて、今の日本人を丹念に描いた。
丹念に、あえていつものように卑小に、細部を丁寧に、日本人を描きこんだ。
だから 、
ただ一つのメッセージが心に響いた。
彼らは私たちだ、と。これはいま起きていることだ、と。

ありきたりの残酷さと保身、諦めや潔さ、欲、みんなごく普通にもっている。
この作品に描かれているのは遠い世界のユダヤ人差別ではない。
出てくるどのニンゲンもが普通の人たちで、こんなことどこにでも誰にでもおきる。

こんなこと、いまでもあるよ・・・・状況は極端でも、心情はいくらでもどこにでもある。

そう思うことが「普遍性」なんじゃないか。
三谷幸喜の描く細部の力、それを思い知った。

普通を普通に描くことで普通の先にある異常を描く。

素晴らしい芸達者たちの芝居を楽しみながら、心がひりひりする。

今、起きていること・・・・・。

芸達者たちの超絶な芝居を抑えて、小林隆さんの召使いフリッツが主役だった。
おとなしく控えめで主人に忠実な博識の映画通。
彼には何の罪もない。ただ、彼がユダヤ人であるという理由だけで「あの人」の絶対的な力によって虫けらよりも価値のない命になる。彼はその運命をそのまま受け入れるしかできない。彼には選択することができない。

けれど、最後に言うのだ「うるさい!今日くらい静に映画を見させろ」と。

誰がもっとも映画を愛していたのか、
言い換えれば、誰がもっともにんげんであったのか。

いま起きていること。
そこにも、ある。どう生きるかが問われている。
無慈悲で不条理で非情な運命を受けてなお人間である人たちと、
犠牲を食い散らかしている者たちと。

同じだ、と何度も何度も思った。
3・11のあとで、これを見た意味を考えなくてはならない。


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Comments

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