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October 10, 2011

ウェアハウス

2011年10月9日 シアタートラム

スズカツ&橋爪功

「レインマン」が心に残る作品でした。その後、篠井さんとの作品があまり好みでなく、しばらくスズカツはお休み・・・・3年ぶりでしょうか、「レインマン」と同じ橋爪さんの芝居に期待して見てきました。

お話しは、取り壊される予定の教会に集まる暗唱サークル。暗唱サークルのメンバー、エトウに突然英語で話しかけてきた正体不明の初老の男、オリベ。強引に話しかけてくるオリベのペースにはまって行くエトウ。

舞台装置はいたってシンプルでシアタートラムの低い床、中央に大きな四角い回転する台。

暗唱サークルに参加しているメンバーのだれもがふつうのひとよりも0.5ミリくらい現代とずれている(全共闘っぽい)濃い感じ。

橋爪功さんのオリベ。妙に人なつこい?しかしあからさまに怪しい。免許証をちょっと見ただけで住所も生年月日も覚えてしまう?もちろん明らかに怪しい。ホームレス?アスペルガー系の病気?なにかのスパイとか、探偵とか?前川さんの本なら異世界のひとなのだけど・・・

演劇的実験とか不条理劇とかかなぁ、苦手かもしれない・・・

なんとなく居心地の悪さを感じながら劇はどんどん進んでゆく。


オリベがつくる妙な穴にはまって自分を明かしてゆくエトウ。
オリベの「やってみたら」にのっかっていままで披露できなかった長編詩「吠える」を暗唱の練習を始める・・・。

暗転のあと照明を浴びてエトウはサークルのメンバーの前で暗唱をしている。「彼とともにいるのは私だ」というフレーズを何度も何度も、伴走の言葉を替えて「吠え」て。客席に向かって一歩ずつ前へ出てゆく。腹の底から吠えている。詩人の咆哮とエトウが一体になっている。

暗唱がおわる。やった。彼はやりたかったことをやった。

居心地の悪さは消え心地よい興奮に満たされる。

メンバーの称賛を浴び、再びオリベとエトウは二人きりになっている。
エトウのお気に入りのジャケットをちゃっかり着込んだオリベが「自分のはなし」をはじめるが・・・それは彼が現在住むぼろアパートの隣人の貧困な生活の様子であり、妻との離婚であり・・・

薄汚く暗く不快な他人の不幸。

人の善いエトウの本音が露わになって行く。何なんだ、これは。自分がはまってしまったこの状況は何なんだ。

もう聞きたくない、エトウが初めて遠慮をすてる。相手に本音を言う行為。それを彼は今までしてきたか。    否。

オリベはエトウを離さない。逃がさない。うるさい犬をナイフで刺し殺し、そのナイフがエトウに向けられる。
「私を殺してください」と言えと。
殺されたくない。殺されたくない。死にたくない。

エトウはナイフを奪う。もみ合う。エトウは握ったナイフをオリベに向ける。相手に向かう行為。それを彼はしてきたか。   
否。

そして、オリベはエトウの前に立ちふさがる。エトウが構えたナイフにむかって両手を広げまっすぐ自分の体を重ねる。

暗転。再び暗唱サークル。
金田明夫さんの暗唱が遠いところで聞こえていた。「私と犬はともにいたが、犬こそが私を愛していたのだ、私が犬を愛していたのではなく」そんな言葉だったかな。オリベが一体何者だったのか、そんなことはどうでもよいことだった。
オリベはエトウにとって誰か、ではなく、彼に起きた何かだった。

芝居が終わって劇場が暗くなってもしばらく客席はとまどいの静けさをまとっていた。
わたし一人でも、立って、拍手すれば良かったな。だって、ほかに続くことはない。

未来くんの「変身」を思い出していた。同じ爽快感。深い読後感。
あぁ、だからこれは不条理劇なのだ、と深く思った。

終わって、すべて終わって、そこから始まる。新しい地平が始まる。
それは演劇の力だ。
言っていることはどちらも単純なたったひとつのことでしかない。

人生には不条理なことが起きるのだ、と。

人にそれが起きたとき、人はそれを受けるしかないのだ、と。

このようにして、「出来事」は人におきるのだ。
合理的な理由など無い。勧善懲悪など関係ない。条理など無い。

おもえば、昨年の「変身」からこの作品を見るまでに
たくさんの不条理を私は知ったよ。
体の一部の喪失、古い友人の死、暖かい家庭感情の喪失、心地よい仕事場の喪失、3・11、
リベラルのなれの果てたち。

そのどれにも後戻りはなく、回避もなく、魔法のランプもない。

体を張って膨大なセリフを言ってゆく姿をさらして潔かった金田明夫さんに、拍手を。
指の先で転がすように相手の感情をひきぬきつきさしなでまわる橋爪功さんに、賞賛を。

そして、人は不条理にあってなお新たな地平に行く、この事実を演劇化したスズカツに感謝。

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